【社会保険料】106万、130万の壁を乗り越える方法
石川県金沢市にある税理士法人のむら会計、公認会計士・税理士の野村です。
「106万の壁」という言葉をご存じでしょうか?
「年収106万を超えると社会保険に入る義務が生じ、手取りが一気に減る」ことをいいます。
また、「130万の壁」という言葉を聞いたことがある方もいるかと思います。
こちらも「年収130万を超えると社会保険に入る義務が生じ、手取りが一気に減る」ことをいいます。
イメージとしては以下です。
106万と130万のどちらが正しいのでしょうか?結論としては
106万の壁:従業員51人以上の会社で働いている人の基準
130万の壁:従業員50人以下の会社で働いている人の基準
となり、会社の従業員数によって正解が異なる話になっています。
106万の壁が適用される従業員数が
501名以上(~22年9月)→101名以上(~24年9月)
と徐々に基準が下がり、24年10月から51名以上の会社に適用されます。
今回は、24年10月から106万の壁が適用される会社が増えることに伴い、中小企業経営者として、パートの採用・活用にどのような影響があるかを解説します。
106万、130万の壁の採用面での活かし方
「うちは従業員51名もいないから、今回の話は関係ないよ」と考える経営者も多いかと思います。
しかし、実は今回の改定は小規模会社の経営者にとってはチャンスだと私は考えています。
なぜなら
「大きな会社(従業員51人以上)で働いたら年収106万を超えたら一気に手取りが減るけど、うちで働いたら年収130万までは働けるよ」
という話が、パートの採用の際に求職者のメリットとして伝えられるようになるからです。
最近は、人手不足でパートを雇いたくても雇えないような状況にあります。
小規模会社で働くことのメリットをしっかりと求職者に伝えるようにして、少しでも魅力的な求人内容にしましょう。
130万を超えても社会保険に入らずに働ける方法
「130万を超えても社会保険に入らずに従業員さんに働いてもらう方法がないか」と考える経営者も多いかと思います。
こちらについては…
パートで働く方が、繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで引き続き配偶者の扶養に入り続けることが可能な仕組みがあります。
事業主の証明には具体的には以下の記載が必要です。
実務的な話ですが、「雇用契約書等により本来想定される年間収入」を記載する必要があるので、あくまで雇用契約書等は130万以内となるような記載が必要となります。
その上で、残業をしたという形で130万を超えた形にすることで、130万を超えても社会保険に入らないことが可能となります。
なお、あくまで「一時的な事情」により認められる方法であるため、同一の者について原則として連続2回までを上限として認められる措置です。
最大で2年連続はこの措置を使えるため、うまく制度を使ってパートさんの手取りを増やして、会社としても負担が増えない形を活用しましょう。
社会保険に入るが、会社として助成金をもらって負担を減らす方法
長い目で見ていくと、パートも社会保険に入った上で働くことを前提に会社の経営は考えざるを得ない状況なのかと私は考えています。
まず、パートの立場にたって、社会保険に入った場合と社会保険に入らない場合で、どれくらい手取りに差があるのでしょうか?
年収106万を前提とすると、社会保険に加入することで手取りが約16万減ることになります。一方で会社の立場でいえば…
社会保険に入ることで、負担額が約16万増えます。
パート・会社ともに社会保険に入るのはとても重たい話となります。
国としてはキャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」という制度を用意して、パート・会社の両者の負担軽減を図っています。
助成金自体は複雑なのですが一番シンプルなメニューは以下です。
パートの立場としては、賃金の15%以上が追加支給されるので、社会保険の加入に伴う手取り減少の約16万以上が支給され、手取りのマイナスがなくなります。
会社の立場としては、パートが社会保険に加入することで約16万の負担が増えるのですが、1年目は助成金が20万もらえます。
ただし、パートの手取りが減らないように約16万以上の追加支給をする必要があるので、トータルとしては負担額は約12万に抑えることが可能です。
通常は約16万の負担増であったため減額幅は小さいのですが、それ以上に「年収106万を超えると社会保険に入らなければいけないなら、就労調整をしよう」というパートさんの働き控えを防ぐことが可能となります。
ただ、会社の立場としては助成金はもらえて3年間で、金銭的にも得ができるような助成金ではないため、4年目以降の負担増はしっかり計算した上で助成金を使うかの判断が必要となります。
キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」を使った、パートの額面と社会保険料と手取りのイメージは以下となります。
まとめ
今回は「106万、130万の壁を乗り越える方法」を解説しました。
段々と最低時給も上がってきて、パート・アルバイトの活躍が必須な中小企業には苦しい世の中になっています。
とはいえ、世の中に不満を言うだけでは状況は変わっていかないため、現状の制度でできることを把握しながら、上手に経営をしていきましょう。
石川県で106万、130万の社会保険料の壁にお悩みの方は、石川県金沢市にある当税理士法人にお声がけください。
この記事を書いた人
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金沢で50年続いている会計事務所、税理士法人のむら会計を運営。
ITの知識・金融機関監査の経験を生かし「関わる人の納得いく決断と安心を誠実にサポートする」ことをミッションに活動している。
【主な保有資格】
公認会計士 登録番号26966
税理士 登録番号125179
【著書・掲載実績】
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