「106万の壁」が撤廃見込み。中小企業への影響

石川県金沢市にある税理士法人のむら会計、公認会計士・税理士の野村です。
「103万の壁引き上げ」のニュースが連日なされていますが、「106万の壁撤廃」のニュースも同じようなタイミングで報道されています。
「色んな壁が撤廃されて、みんなの手取りが増えそうだね」という感想は実は大きな勘違いで

103万の壁引き上げ:労働者の手取りが増えて、政府の収入が減る話。
106万の壁撤廃:労働者、中小企業の手取りが減り、政府の収入が増える話。

と真逆の話となっています。
今回は、「103万の壁引き上げ」よりも影響力が大きいともいえる「106万の壁撤廃」を解説します。

106万の壁1

106万の壁とは?

106万の壁は2016年10月からできた、比較的新しい壁です。学生を除き

①従業員数51人以上の会社に勤め
②週20時間以上働き
③年収106万以上で(月給が8.8万以上)
④2ヶ月を超える雇用の見込みがある方

について、社会保険に加入する義務が発生するため、年収106万円以下になるように就労調整する方が多く「106万の壁」といわれています。


ざっくりとした試算だと、社会保険に入ると「個人負担:額面給料×15%」「会社負担:額面給料×15%」という多額の社会保険料がかかってきます。
年収106万×15%=約16万のため、年収106万を稼いだ想定で社会保険に入る、入らないで、個人の手取り(所得・住民税除く)、会社の負担額は以下のように変動します。

106万の壁2
もちろん個人としては「将来の年金が増える」「傷病時の保障が増える」などメリットもありますが、一般的には「将来もらえるお金より、今もらえるお金」に価値を感じるため、手取りが減ってしまう社会保険加入にデメリットを感じる人が多いです。
また、会社としては、従業員に直接払う額面が変わらず、社会保険加入のメリットを従業員があまり感じない中で、国に払う社会保険料が増加する形となるため、ほぼデメリットしかありません。

106万の壁撤廃とは何をすることか

先ほど①~④の要件全てあてはまった方が社会保険に加入する義務が発生すると書きましたが、シンプルに「➁週20時間以上働く」という条件だけで、社会保険への加入義務を発生させることを「106万の壁撤廃」という形で報道がなされています。

「③年収106万以上」という年収要件は2年後の2026年10月に撤廃が想定され、「①従業員51人以上」の規模要件は2027年10月に撤廃を想定されています。

例えば飲食店、スーパーなど小売業では、現在は社会保険に入っていないパート・アルバイトが労働力の中心となり運営されています。
これが106万の壁が撤廃されて、パートの多くが社会保険に加入するとなったら、どうなるでしょうか?あくまで予想となりますが

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飲食店、小売業を経営する企業の社会保険料負担が増加

対策をしないと飲食店、小売業の利益が減少し、経営が圧迫される

対策として、値上げをすることで利益回復を図る

世の中全体として、生活必需品の物価が上がる

パート本人も社会保険料負担で、手取りが増えている状態ではない

生活必需品を買うための生活防衛として、贅沢品が売れなくなる

世の中全体として景気が悪くなり、企業の業績も悪化
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こんな未来が想像できます。

もちろん「パートで就業調整をしていた方がもっと働くようになり、日本全体がよくなる」という未来もありえます。
ただ、私も3人の子を育てている子育て世代ですが、そもそもなぜ正社員でなくパートで働いている人が多いのでしょうか?
明るい未来だけを描くのは短絡的かと私は考えています。

また、今度は「週20時間の壁」という新たな壁も発生します。
企業として社会保険料負担を避けるため「週19時間までのパートしか雇わない」という会社も出てくるかと思いますが、そのパートをマネジメントしてシフト管理・教育をする管理者の負担増加を考えると怖くなります。

130万の壁もあったのでは?

忘れてはいけない壁として「130万の壁」も現在はあります。
これは従業員が50人以下の企業で働く人は、年収130万を超えると配偶者の扶養を外れて、国民年金や国民健康保険の支払いが発生することをいいます。

また、従業員50人以下の企業では、正社員の3/4以上の労働時間がある場合は社会保険に入る義務が発生する「3/4ルール」も存在します。

現在、多くの中小企業は上記2つのルールによってパートの社会保険負担があるかが決定します。
しかし、106万の壁が撤廃されると実質的には「週20時間以上働くか否か」だけで社会保険が発生するか決まることが増えるかと想像します。

中堅企業以上にとっては、106万の壁撤廃は2016年10月から徐々に適用が始まっていた話なので、そこまで影響が大きくはありません。
一方で従業員50人以下の中小企業にこそ106万の壁撤廃は影響が大きい話となります。

まとめ

今回は「106万の壁撤廃」について取り上げました。
前回の「103万の壁引き上げ」の話に引き続いて、簡単な話ではないかと思います。
ただ、106万の壁撤廃は中小企業にとっては死活問題にも繋がる話かと私は考えています。

現在の社会保険の仕組みを微修正しながら社会保険制度を整備していくのはとても難しいことかと思っています。
個人的には、例えば所得税のように社会保険も「収入の大きい人には高い税率、低い人には低い税率」という仕組みでも導入できたらいいのかとも思っています。

石川県で106万の壁にお悩みの方は、石川県金沢市にある当税理士法人にお声がけください。

この記事を書いた人

野村 篤史税理士法人のむら会計 代表
金沢で50年続いている会計事務所、税理士法人のむら会計を運営。
ITの知識・金融機関監査の経験を生かし「関わる人の納得いく決断と安心を誠実にサポートする」ことをミッションに活動している。

【主な保有資格】
公認会計士 登録番号26966 
税理士 登録番号125179 

【著書・掲載実績】
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