大幅節税と福利厚生充実を両立! 「はぐくみ企業年金」

石川県金沢市にある税理士法人のむら会計、公認会計士・税理士の野村です。

企業の持続的な成長には、優秀な人材の確保が不可欠です。そのためには、魅力的な福利厚生制度の構築が大事な要素となります。また経営者にとって節税は大きな関心事です。しかし、近年は節税商品も規制が進んでいて、選択肢が狭まっているのが現状です。

今回は、役員1人当たり最大月額40万、年間480万の経費を作れることから、節税面でも話題の「はぐくみ企業年金」について、その仕組みから具体的なメリット・デメリットまで解説いたします。

はぐくみ企業年金とは?その基本的な仕組み

はぐくみ企業年金は、2018年に創設された新しい企業年金制度です。最大の特徴は、役員・従業員が自身の給与から将来の年金や退職金を自ら積み立てていく仕組みである点です。

一般的な企業年金は企業が掛金を負担するイメージがあるかもしれませんが、はぐくみ企業年金は「企業年金」という名称ながらも、掛金の財源は会社の負担ではなく、従業員の給与から天引きする形を取ります。これにより、会社はコストをかけずに退職金制度を構築できます。

導入対象となる法人は広く、厚生年金に加入している事業所であれば導入が可能です。役員の方も加入できる点が大きな特徴です。ただし、2期連続で赤字の会社や設立1年未満の法人、従業員が少ない法人には不向きな場合があるため注意が必要です。また、従業員の資産形成が制度の趣旨であるため、役員のみの加入を前提とした導入は原則として断られる場合があります。

従業員の加入は任意であり、強制されることはありません。ただし、約7割の従業員が加入を選択するという統計データもあり、特に普段から貯蓄をしている方には魅力的な制度となっています。

はぐくみ企業年金の大きなメリット

はぐくみ企業年金は、役員・従業員と法人双方に大きなメリットをもたらします。

役員・従業員側のメリット

① 社会保険料と所得税の劇的な削減効果

はぐくみ企業年金に積み立てる掛金は、給与の額面から控除されるため、社会保険料と所得税・住民税の計算対象から外れます。これは年間で大きな削減効果を生み、他の節税商品にはない社会保険料圧縮効果が特徴です。特に役員の場合は最大で月額40万、年間480万を拠出できるため、劇的な社会保険と税の削減効果があります。

また、受け取る際は、退職所得、または公的年金等の雑所得として扱われ、税制上の大きな優遇があります。特に退職所得として受け取る場合は、ほぼ無税で受け取れるケースも少なくありません。

はぐくみ 節税

② 元本保証と運用リスクの低さ

はぐくみ企業年金は「確定給付型」であるため、原則として元本が保証されます。万が一運用が不調でも、不足分は会社が補填するため、従業員が損失を被るリスクは極めて低いです。基金の運用は生命保険会社などが安全性の高い資産で行っており、元本割れのリスクは限りなくゼロに近いとされています。投資知識がない方でも安心して資産形成が可能です。

③ 早期受取が可能

一般的な企業年金やiDeCoは原則60歳以降でないと受け取れませんが、はぐくみ企業年金は、退職時だけでなく、休職、育児休業、介護休業といったライフイベント時にも受け取りが可能です。これは、まとまったお金が必要な時期に活用できる大きなメリットです。

法人側のメリット

① 社会保険料の削減

従業員の掛金により給与額面が下がることで、従業員の社会保険料が削減されるだけでなく、会社が負担する社会保険料も同時に削減されます。社会保険料は会社にとって重い負担であり、従業員数が多いほど削減効果は大きくなります。

② 退職金負担の軽減と福利厚生の充実

従業員が自ら掛金を拠出するため、会社が直接的に退職金を積み立てる必要がありません。これにより、コストをかけずに退職金制度を導入できるだけでなく、従業員の資産形成を支援し、福利厚生を充実させることができます。

③ 事務手続きの効率化

専用システムを利用することで、従業員の掛金申請、承認、基金への届け出などをスムーズに行うことができ、企業の事務作業の負担を軽減します。

導入前に知っておきたいデメリット及び留意点

従業員側の留意点

・毎月の手取り額の減少: 掛金は給与から天引きされるため、毎月の給与の手取り額は減少します。

・将来受け取る厚生年金(2階部分)の減少: 給与額面が下がると社会保険料負担が減るため、将来受け取る厚生年金(2階部分)の額が減少する可能性があります。ただし、はぐくみ企業年金(3階部分)と合わせるとトータルの受け取り額は増加するケースが多いとされます。

・雇用保険の失業給付額減少: 失業給付額が減少する可能性もあります。

法人側の留意点

・初期導入費用とランニングコスト: 制度導入時には約30万円程度の初期費用と、加入者1人あたり月額数百円の運用コストが発生します。しかし、これらは社会保険料削減効果によって早期に回収可能です。

・運用不足発生時の会社負担: 運用が不調で元本割れが生じた場合、会社がその不足分を補填する義務があります。ただし、運用商品が低リスク商品のため、その可能性は極めて低いと言えます。

・導入時の事務的な手間:就業規則や賃金規定の改定、従業員説明会開催など、一定の事務的な手間が発生します。

はぐくみ企業年金が向いている企業

はぐくみ企業年金は、特に以下のような企業に強くおすすめできます。

・役員報酬が高く、さらなる節税対策を検討している企業。
・会社負担を抑えつつ、退職金制度や福利厚生を充実させたい企業。
・女性従業員が多く、育児・介護休業中の支援を重視したい企業。
・従業員が、投資のリスクを避けたいと考える傾向がある企業。

他の企業年金制度との比較

以下の表は、確定拠出年金、中小企業退職金共済との比較表です。色々と違いはありますが、拠出金上限が大きいのが、はぐくみ企業年金が他の企業年金制度と大きく異なる点です。

はぐくみ企業年金 比較表

まとめ

「はぐくみ企業年金」は、従業員の資産形成を強力に支援しつつ、企業の社会保険料負担を軽減するという、従業員・法人双方にとってメリットある画期的な制度です。特に社会保険料まで圧縮できる点は、大きな強みと言えます。当事務所では、はぐくみ企業年金の導入に関するご相談を随時承っております。

石川県で「はぐくみ企業年金」の加入を検討される方は、石川県金沢市にある当税理士法人にお声がけください。

この記事を書いた人

野村 篤史税理士法人のむら会計 代表
金沢で50年続いている会計事務所、税理士法人のむら会計を運営。
ITの知識・金融機関監査の経験を生かし「関わる人の納得いく決断と安心を誠実にサポートする」ことをミッションに活動している。

【主な保有資格】
公認会計士 登録番号26966 
税理士 登録番号125179 

【著書・掲載実績】
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