中小企業向け:令和8年度税制改正大綱のポイント解説

石川県金沢市にある税理士法人のむら会計、公認会計士・税理士の野村です。

政府より令和8年度税制改正大綱が公表されました。今回の改正では、中小企業にも影響する「減税」方向の改正が複数盛り込まれています。

数ある改正の中から、「これだけは知っておきたい」ポイントをピックアップしましたので、ぜひご確認ください。

1.年収の壁の引き上げ

デフレ脱却と物価高への対応として、個人の税負担を軽減する「年収の壁」への対応が盛り込まれました。

基礎控除の引上げ

所得税の基礎控除(本則)が、現行の58万円から62万円へと4万円引き上げられます。さらに時限特例として、給与収入が665万以下では基礎控除が+42万円となり104万円に。給与収入が665万超~850万以下では+5万円となり67万円になります。

<給与収入別 基礎控除の表>

給与所得控除の見直し

最低保障額が現行の65万円から69万円に引き上げられます。さらに、令和8年・9年分については、最低保障額が追加で5万円引き上げられ、74万円となります。

これらの、基礎控除の時限特例や給与所得控除の更なる引上げにより、給与収入が178万円(基礎控除104万円+給与所得控除74万)までは、所得税がかからないようになります。

なお、注意点として「130万円の社会保険の壁」には変更はありません。
従業員数50人以下の中小企業で働くパート・アルバイトの方は、年収130万円を超えると社会保険の扶養から外れ、手取りが減少する状況は引き続き残ります。

所得税の壁が178万円に引き上げられても、社会保険の壁の影響により、実質的には年収130万円以下に抑えざるを得ないケースが多い点には、引き続き留意が必要です。

2.未成年者特定累積投資勘定(こどもNISA)の創設

NISA制度が拡充され、次世代の資産形成を支援するために18歳未満の未成年者も利用可能になります。教育費が年々増加する中、制度を上手に活用したいところです。

 口座開設年齢の撤廃

非課税口座の開設可能年齢の下限が撤廃され、0歳から口座を持つことが可能になります。

未成年者特定累積投資勘定

年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円に設定されました。

払出しの制限

原則として18歳になるまで非課税での払出しは制限されます。
ただし、災害時や、子の年齢が12歳以降で教育費等に充てる場合には、親権者等による払出しが認められます。

3.暗号資産取引の分離課税化

長年要望されていた暗号資産の課税方式が、株式と同様の仕組みへと抜本的に見直されます。

申告分離課税の導入

暗号資産の譲渡所得は、これまで最高税率55%超となる総合課税でしたが、今後は他の所得と分離し、税率20.315%で課税される方式へ移行します。

損失の繰越控除

暗号資産の取引で生じた損失について、翌年以降3年間の繰越控除が可能になります。

4.食事・夜食の非課税枠引上げ

物価高の影響を考慮し、従業員への食事提供に関する非課税限度額が長年据え置かれてきた水準から引き上げられます。

食事の支給

会社が負担する食事代の非課税限度額が、月額3,500円から月額7,500円に倍増します。

夜食の現金支給

深夜勤務者に現物支給に代えて支給する金銭の非課税枠も、1回300円から650円へと引き上げられます。

人手不足が深刻化する中、実質的な手取り額を増やす福利厚生として有効に活用いただける改正です。

5. 中小企業の設備投資支援 少額減価償却資産の特例拡充

中小企業者等が設備投資を行いやすいよう、取得時に全額損金算入できる資産の基準額が引き上げられます。

取得価額の引上げ

即時償却が可能な減価償却資産の基準が、現行の30万円未満から40万円未満へと引き上げられます。

高スペックなPCや事務機器など、生産性向上に直結する設備投資への活用が期待されます。

6. インボイス制度 経過措置の見直しと事務負担軽減

インボイス制度の社会的定着を図るため、経過措置の延長と新たな負担軽減策が講じられます。

3割特例の新設

インボイス登録により新たに課税事業者となった個人事業者について、
令和9年・10年の各課税期間において、納税額を売上税額の3割とする特例が設けられます。いわゆる「2割特例」終了後の負担緩和措置ですが、法人には適用されない点に注意が必要です。

3割特例

仕入税額控除の段階的縮減

免税事業者からの仕入れに係る税額控除の経過措置について、期間が延長された上で、控除割合が令和8年10月から7割、令和10年10月から5割、令和12年10月から3割と段階的に縮小されます。

70%控除

まとめ

今回の税制改正大綱は、今後の国会審議を経て正式決定されますが、実務への影響が大きい改正も含まれています。活用できる制度は積極的に取り入れ、経営に役立てていきましょう。

石川県で「税制改正」にお悩みの方は、石川県金沢市にある当税理士法人にお声がけください。

この記事を書いた人

野村 篤史税理士法人のむら会計 代表
金沢で60年以上続いている会計事務所、税理士法人のむら会計を運営。
ITの知識・金融機関監査の経験を生かし「関わる人の納得いく決断と安心を誠実にサポートする」ことをミッションに活動している。

【主な保有資格】
公認会計士 登録番号26966 
税理士 登録番号125179 

【著書・掲載実績・監修】
図解でざっくり会計シリーズ2 退職給付会計の仕組み(中央経済社)
賢い節税で会社を強くする方法教えます(月刊経理ウーマン 16年10月号)  
失敗しない「税理士」選びーここがポイントだ!!(月刊経理ウーマン 18年8月号)  
決算期を過ぎてもできる節税策ー4つの着眼点ー(月刊経理ウーマン 20年5月号)
社会保険料の会社負担を減らすための、アノ手コノ手を教えます(月刊経理ウーマン 23年9月号)
小規模企業共済のメリット&デメリット(月刊経理ウーマン 24年2月号)
ソニーGなど「賞与の給与化」で手取り増 社会保険料の負担減り一石二鳥(日経ビジネス25年11月10日号)

無料相談のお問い合わせ

ご質問などお気軽にお問い合わせください