社会保険「130万円の壁」の新ルール!2026年4月スタート
石川県金沢市にある税理士法人のむら会計、公認会計士・税理士の野村です。
「パートさんが年収130万円に抑えるために、年末の忙しい時期にシフトに入ってくれない」という問題は、経営者の頭を悩ませているかと思います。
今回は、2026年4月1日から始まる社会保険の被扶養者認定(いわゆる「130万円の壁」)に関する、大きなルールの変更について、中小企業の経営者が何をすべきか解説します。
この改正は、パートやアルバイトとして働く方々の「働き控え」をなくし、安心して労働時間を増やしてもらうための制度です。
企業側もこの新ルールを理解し、準備を進めることが、優秀な人材の確保に直結します。
改正の核心:壁の判定基準が「実績」から「契約」へ大転換
これまで、配偶者や家族が社会保険の扶養に入れるかどうか(130万円の壁)は、「今後1年間で、どれくらい収入を得そうか」を過去の実績や残業見込みなどを含めて総合的に判断されてきました。
この従来の判定方法には、「実際に働いてみないと扶養に入れるかどうかわからない」という予測のしづらさがありました。
そのため、扶養を外れることをおそれて、働きたいのに収入を130万円未満に抑える「就業調整」が頻繁に発生していました。
この問題を解決するため、2026年4月1日からは、判定基準が以下のように変わります。
ポイントは、労働契約書あるいは労働条件通知書を締結し、書面上で年間130万円以内の契約となっていれば、結果として130万円を超えても扶養のままでいられる、ということです。
新ルールの重要ポイント:残業代と通勤手当の注意点
新しいルールが適用される上で、企業と従業員の双方が特に注意すべきポイントが二つあります。
残業代(時間外賃金)は原則、計算に入れなくてOK
労働契約書に「必ずこのくらい残業します」という明確な規定がない限り、残業代(時間外労働に対する賃金)は、原則として年間収入の見込みには含めなくてよいことになりました。
たとえ扶養認定の時点でたまたま残業が多くなっていたとしても、当初の労働契約に規定がなければ、その年度は「一時的な収入変動」と見なされ、年間収入の見込みに含める必要はありません。
つまり、予期せぬ臨時収入(予期せぬ残業など)で結果的に130万円を超えた場合でも、その超過が社会通念上妥当な範囲(常識的な範囲)に留まるならば、すぐに扶養から外れることにはならないということです。
なお、この判断のために、保険者(健保組合や協会けんぽ)から「被扶養者の収入確認に当たっての一時的な収入変動に係る事業主の証明書」を求められることがありますが、その際は証明書を作成して対応しましょう。
「通勤手当」は必ず含める
社会保険の扶養判定において、多くの方が誤解しやすいのが通勤手当の扱いです。
税金(所得税)の計算では、一定額まで通勤手当は非課税ですが、社会保険の被扶養者認定における年間収入の計算では、通勤手当も全額が収入に含まれます。
通勤手当が高額な場合、基本給と合わせると、知らぬ間に130万円を超えてしまう可能性があります。
労働条件通知書に通勤手当の金額を必ず明記し、年間収入見込みの計算に含める必要があります。
中小企業が今すぐ取り組むべき実践的な行動
2026年4月の適用開始に向けて、企業側には「書類管理と契約内容の明確化」をすることが重要です。
労働条件通知書(雇用契約書)の再点検と整備
新ルールでは、労働条件通知書の記載内容が扶養認定の可否を直接左右します。曖昧な記載や、書類がない場合は、新ルールのメリットを享受できません。
特に以下の点を明確に記載してください。
(1)時給、所定労働時間、勤務日数
(2)通勤手当(金額または算定方法)
(3)時間外労働の有無や固定残業代(残業を見込まない場合はその旨を明確に記載)
労働条件の変更時の確認を徹底する
昇給や勤務時間変更などで労働条件に変更があった場合は、その都度、新しい労働条件通知書(雇用契約書)を作成し、変更後の年間収入見込みが基準額(130万円など)未満であることを確認し直す必要があります。
従業員への周知
従業員から扶養認定に関する問い合わせが増えることが予想されます。
社会保険の壁について、改めて正確な把握をした上で、従業員に正しく伝えましょう。
まず、「130万円の壁」と一般的なケースでこれまで説明を進めてきましたが、以下のケースでは基準が130万円より大きい額となります。
・60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者:180万未満
・19歳以上23歳未満で配偶者以外:150万円未満
年齢については「その年の12月31日時点」で判定します。
大学生世代のアルバイトが主力の会社においては、年齢の判定方法も正確に把握しましょう。
また、パート、アルバイトの方が親や配偶者と「同一世帯(同居)か否か」によっても判定が異なります。
同一世帯(同居):親や配偶者の年間収入の半分未満
同一世帯でない(別居):援助(仕送り)による収入額未満
これまでの内容をまとめると、以下のフローチャートとなります。
正確な知識を持ち、パート、アルバイトに有利に働いてもらいましょう。
まとめ
この法改正は、企業がパート・アルバイトを雇用しやすくし、従業員の「働きたい意欲」を引き出す大きなチャンスです。
ただし、その前提となるのは「労働契約の正確な管理」です。
2026年4月1日時点では、全てのパート・アルバイトについて労働条件通知書を整備しましょう。
特に残業を見込まない場合は「時間外労働の有無:時間外労働はない見込み」などの記載を明確にすることで、社会保険の認定の際に有利な取扱が受けられます。
最新の制度に関する情報も正確に把握し、制度をうまく使いこなして、パート・アルバイトが有利に働けて、経営者も労働力をうまく確保できるような対応をとっていきましょう。
石川県で「社会保険の壁」にお悩みの方は、石川県金沢市にある当税理士法人にお声がけください。
この記事を書いた人
- 税理士法人のむら会計 代表
-
金沢で60年続いている会計事務所、税理士法人のむら会計を運営。
ITの知識・金融機関監査の経験を生かし「関わる人の納得いく決断と安心を誠実にサポートする」ことをミッションに活動している。
【主な保有資格】
公認会計士 登録番号26966
税理士 登録番号125179
【著書・掲載実績】
図解でざっくり会計シリーズ2 退職給付会計の仕組み(中央経済社)
賢い節税で会社を強くする方法教えます(月刊経理ウーマン 16年10月号 )
失敗しない「税理士」選びーここがポイントだ!!(月刊経理ウーマン 18年8月号)
決算期を過ぎてもできる節税策ー4つの着眼点ー(月刊経理ウーマン 20年5月号)
社会保険料の会社負担を減らすための、アノ手コノ手を教えます(月刊経理ウーマン 23年9月号)
小規模企業共済のメリット&デメリット(月刊経理ウーマン 24年2月号)
最近の記事
経営ワンポイント2025年12月2日社会保険「130万円の壁」の新ルール!2026年4月スタート
経営ワンポイント2025年11月4日石川県賃上げ環境整備助成金 ~先に設備投資していても事後的に適用可能!~
経営ワンポイント2025年9月26日令和7年分 年末調整の注意点
個人の節税2025年8月28日ふるさと納税するなら、10月の制度改定前に!

無料相談のお問い合わせ
ご質問などお気軽にお問い合わせください







